ビーチバレーボール

「ワールドツアー」がリニューアル「ビーチプロツアー」とは

「ワールドツアー」がリニューアル「ビーチプロツアー」とは

国際バレーボール連盟(以下・FIVB)が主催する「FIVBワールドツアー」が2022シーズンより、装いを新たにした。その名も「ビーチプロツアー」(以下・プロツアー)。カテゴリーや参加チーム数を含めたレギュレーションなども大幅に変わった。今回のコラムでは、リニューアルの狙いと「プロツアー」がどのように変貌を遂げたのか、触れていきたい

これまでよりエキサイティングなツアーに

我々がこれまで「ワールドツアー」と呼んできたFIVBが主催する世界各地を転戦するビーチバレーボールの国際大会は、オリンピックを節目にたびたび模様替えを遂げてきた。

2000年以降、冠のツアー協賛を銘打ち、「グランドスラム」「オープン」「チャレンジャー」など獲得ポイントや賞金額の差別化を図り、選手のモチベーション向上へつなげた。

記憶に新しいのは、2017年から2021年まで展開されていた5段階によるStar制だ。星の数が多ければ多いほど、獲得賞金やポイントも上がり、5-star大会は別名「メジャーシリーズ」とも呼ばれ、各大会に特別協賛がつき、盛り上がりを見せていた。

また1-star大会においては、ビーチバレーボールの国際大会を開催したことがないような国や地域での開催も見られた。ビーチバレーボール発展途上国でも世界での経験やチャンスが生まれるようにという狙いがそこにはあった。

さて、今度のプロツアーはどうだろうか。各大会のカテゴリーは「Elite 16」、「Challenge」、「Future」の3つ。最高峰となる「Elite 16」は本戦において男女各16チーム、「Challenge」は男女各24チームの出場が定められている。従来のワールドツアーは5-star、4-starで男女各32チームだったことを考えると、プロツアーでは出場チームは大幅に少なくなった。

さらに大きく異なるのは、ワールドツアーでは1ヵ国最大4チーム(ワイルドカード利用時はその限りではない)の出場が定められていたが、「Elite 16」と「Challenge」では、1ヵ国におけるチーム数の制限がなくなったことだ。

例えば、アメリカやブラジルなど選手層の厚い国にとっては、これまでチーム制限によって出られなかった5番目、6番目のチームも、ポイントを持っていれば出場可能。保有ポイントの高いチーム優先にシーディングが組まれることになる。

「Elite 16」と「Challenge」は、国による制限関係なく“強いチーム”だけが集まる大会。まさにそれこそが「プロツアー」とリニューアルしたゆえんだろう。

コーチとして15年以上ワールドツアーを転戦し、2022シーズンもすでに開幕戦から「Elite 16」、「Challenge」、「Future」、すべての大会に参戦してきた渥美善博氏は、「プロツアー」の印象をこう語る。
「ワールドツアーよりも、よりイベント性、興行性に力を入れて大会をブランディングしている印象を受けました。上2つのカテゴリーは、強いチームが集まる大会だけにレベルも高く、おもしろい試合が続々と展開されます。ライブ配信も有料となり、これまでの定点撮影だけではなく、より楽しめるようなカメラワークにもなっています。FIVBとしては賞金総額をもっと引き上げていきたいという狙いもあるのだと思います」

よりコンパクトに、よりエキサイティングなイベントへ。「プロツアー」としてブランディングを構築した意図が読み取れる。

日本チームも新ツアーに参戦中

次に3月から開幕した「プロツアー」での日本チームの動向を見ていこう。「Elite 16・ロサリト大会」(3月23日~27日、メキシコ)の予選に出場したのは、石井美樹(湘南ベルマーレ)/溝江明香(トヨタ自動車)組と坂口由里香(大樹グループ)/長谷川暁子(NTTコムウェア)組の女子2チーム。「Challenge・トラスカラ大会」(3月16日~20日、メキシコ)の予選には、坂口/長谷川組、村上めぐみ(立飛ホールディングス)/藤井桜子(立飛ホールディングス)組、柴麻美(帝国データバンク)/西堀健実(トヨタ自動車)組、橋本涼加(トヨタ自動車)/村上礼華(ダイキアクシス)組、本戦から石井/溝江組が出場した。この2大会には、日本男子チームはエントリーポイントが足りず出場できなかった。

すでに新しいツアーの各大会に日本人選手が出場している

日本勢の躍進のカギを握るのは、男女各16チーム、1ヵ国最大4チーム(ホスト国は除く)と出場が決められている「Future」だろう。日本男子勢は、「Future・クーランガッタ大会」(3月30日~4月3日、オーストラリア)に髙橋巧(ANAあきんど)/マルキナシム(トヨタ自動車)組、長谷川徳海(フリー)/倉坂正人(フリー)組、石島雄介(トヨタ自動車)/黒川寛輝ディラン(しながわシティビーチバレーボールクラブ)組の3チームが出場の機会を得ることができた。

同大会で残念ながら全チーム予選敗退に終わったが、渥美氏は日本チームの可能性についてこう話す。

「上2つの大会に出場し続けていれば、そのチームたちはポイントが下がりにくいという部分はありますが、FIVBはその辺りのレギュレーションはまだ手探り状態で、Futureから上がれる救済策も今後は導入していくと思われます。また、世界各国のトップチームはペアの組み替えも行っているので、その分エントリーポイントの変動も出てくる。日本チームも結果を残していけば、出られる大会は増えていくでしょう」

プロツアーによってより魅せるビーチバレーボールに

近年、世界のビーチバレーボールでは、現行のルールをうまく活用しながらのテクニカルなツーパス攻撃やアップテンポのコンビバレーが主流となってきた。世界のトップ選手たちのプレーは、相手チームの意表をつくだけではなく、見ている者を飽きさせない。そんな魅せるビーチバレーボールは「プロツアー」の誕生によって、ますます拍車がかかるだろう。渥美氏も言う。

「選手たちは、これまで以上にお客さんにどうやって楽しんでもらうか、ということを自覚して試合に挑んでいると感じました。もちろんそれだけではなく、結果につなげるには、他のチームと同じことをやるのではなく、いかに守りに入らず度胸を持って戦うことも重要。そういう意味で、世界のビーチバレーボールはどんどん変化しておもしろくなっていくと思います」

そんな「プロツアー」の本質を理解したうえで観戦すると、よりビーチバレーボールを楽しめるはず。2024年パリオリンピックに向けて、勢力を増していくのはどこのチームだろうか。今シーズンもますますビーチバレーボールから目が離せない。

写真:©FIVB