ビーチバレーボール

東京2020オリンピックを振り返る

東京2020オリンピックを振り返る

2021年8月7日、世界のトッププレーヤーたちが目指してきた夢の舞台の幕が下りた。熱戦の余韻はいまだ冷めやらぬ中、東京2020オリンピックにまつわる戦いを振り返ってみたい。

塗り替えられた勢力図

東京2020オリンピックに出場したのは、ワールドツアーによるオリンピックランキング上位15チーム(各国および地域2チームまで)とコンチネンタルカップ優勝チーム、世界選手権とOQT優勝チーム、開催国枠1チームの男女各24チームだった。

男女日本代表はオリンピックランキングでの出場は届かず(石井美樹/村上めぐみ組が16位)、コンチネンタルカップで女子が決勝まで進出したが、中国に敗れ準優勝に終わっていた。

結果、出場権を手にしたのは、開催国枠を決める日本代表チーム決定戦で優勝した石島雄介/白鳥勝浩組、石井美樹/村上めぐみ組だった。

東京2020オリンピックで決勝トーナメント(Round of 16)に進出したチームは、男女ともほとんどがオリンピックランキングで出場権を獲得したチームだった。大陸代表から勝ち上がったのは女子の中国(Xue/ Wang X. X.)とキューバ(Lidy/ Leila)、男子はメキシコ(Gaxiola/Rubio)のみ。いずれも準々決勝進出はならなかった。

大陸代表から勝ち上がった女子の中国(Xue/ Wang X. X.) (C)FIVB

そんな中、存在感を発揮したのは男女ともOQTで出場権をつかんだラトビア。今回初めて導入されたOQTは、タフさが求められる大会となっていた。本戦では次々と優勝候補を破る活躍で、男子(Plavins/Tocs)はロンドンオリンピック(3位)に次ぐ4位、女子(Graudina/Kravcenoka)も初の入賞を飾った。3位に入ったのは男子がカタール(Cherif/Ahmed)、女子はスイス(Vergé-Dépré, A./Heidrich)。カタールは男子アジア勢として初めてオリンピックの表彰台に立った。

OQTで出場権をつかんだラトビア(Graudina/Kravcenoka) (C)FIVB

男子優勝は、第1シードのノルウェー(Mol, A./Sørum, C.)。オリンピック前のワールドツアーでは決して好調ではなかったが、大会期間中に苦しみながらも少しずつ復調し、決勝ではロシア・オリンピック委員会(Krasilnikov/Stoyanovskiy)を振り切った。インドア、ビーチバレーボール両方を通じて初のオリンピック金メダル獲得である。

女子決勝はアメリカ(April/Alix)とオーストラリア(Artacho Del Solar/Clancy)の対決となった。ともにアトランタオリンピック以降、表彰台経験のあるビーチバレーボール大国。オーストラリアはシドニーオリンピック以来の優勝を目指したが、決勝の経験を持つAprilの試合巧者ぶりが際立ち、アメリカが2大会ぶりの金メダルを獲得した。

今大会の結果からは、ヨーロッパおよびアジアのレベルが確実に向上していることが見て取れ、これまでのオリンピックからは勢力図が塗り変わった戦いとなった。

男子優勝のノルウェー(Mol, A./Sørum, C.)(C)FIVB

サーブが鍵となった女子日本代表の戦い

続いて日本代表の戦いを振り返る。

開幕前の選手村にてチェコの男子選手が陽性判定を受け、濃厚接触者認定された女子選手も検査の結果、陽性が判明。この結果を受け、7月24日のオープニングゲームで石井/村上組と対戦予定だったチェコは棄権した。石井/村上組は「同じ志を持ってこの大会に臨んだ私たちとしても、心を痛めています」とコメントし、2戦目以降に臨むことになった。

その後、プール戦の2試合において石井/村上組はドイツ戦(26日)に0-2で敗れ、スイス戦(28日)では第1セットを奪ったものの、フルセットで敗れた。プール3位となった石井/村上組は、ラッキールーザーズマッチへ。そこでスペインに勝利すれば、決勝トーナメント進出という状況だったが、0-2で敗退。17位タイという結果に終わった。

サービスでこれまでの成果を発揮した石井/村上組 (C)FIVB

技術集計を見ると、サービスエースは村上が7本、石井が6本で、サービスエースの確率だけを見れば村上は全体の3位(10.14%)、石井は6位(8.11%)に数えられる。2人をここまで押し上げてきたスピードサーブは、この大舞台でも最大限に発揮できたと言えるだろう。

しかし、エースの確率は高くとも、なかなかブレイクポイントにはつながらず、石井は悔しさをにじませた。「スイス戦の第1セットは相手のサーブレシーブが上がらず、いい状態での攻撃を防げた。しかし第2セットは少しずつサーブレシーブを返され、高さを利用してくる攻撃が増えた。そこで拾いきれなかったことが第2セット以降の違いだった」と振り返る。

スイス戦だけで5本のサービスエースを決めた村上も、失ったセットについてはシビアだった。「ただ点数を取りたい、という気持ちを出し過ぎないように打った結果、あまり効果がなかったと感じる。相手が対応してきた面もあると思うが、個人的には考え方の部分で少し弱くなってしまったかもしれない」。

最後のスペイン戦で村上のサービスエースは0本。石井が所々でエースを奪ったものの、ゲームを通して相手を崩すことはできず、切り返しにつなげられなかった。「ワールドツアーで負けるときと同じ形」、そう石井と村上が語ったように、アタック決定率もスペイン戦では34%と、プール戦での2試合を下回った。

男子日本代表の収穫と露わになった課題

男子の石島/白鳥組は、7月25日のポーランド戦を皮切りにプール戦の3試合に挑んだ。「世界ランキングで見ても自分たちはずっと下」と白鳥が話したように、相手はすべて、優勝候補にあげられるような格上のチーム。ホームの利を生かして、いかに隙を見つけられるかが勝利の鍵だったが、ポーランド、イタリア、ドイツにすべて0-2で3敗を喫した。

高さにどのように対抗していくかが課題となった白鳥/石島組 (C)FIVB

そんな中でも、石島のアタック決定率が36.54%を記録したことは収穫だろう。ビーチバレーボールでは初めてのオリンピックだったが、動きに硬さは見られなかった。石島自身も「北京オリンピックは勝てずに終わってしまったので、今回は1勝を、という気持ちでコートに立った。勝利には届かなかったが、前回よりも充実感がある」と述べたように、地に足をつけて挑んだ大会となった。

ただし課題も浮き彫りとなった。「たくさん差はあるが、一つ間違いなく思ったことは高さだった」と白鳥。緩急をつけた攻撃も最初は決まっていたが、試合が進むにつれ、そう簡単には決めさせてもらえなくなった。窮地を脱するためには、さらに変化をもたらす戦術や技術力を磨いていくことが求められる。日本チームにはまだまだ成長できる部分があるはずだ。

今回、東京2020オリンピックに挑んだ4人の選手たち。「今後のことはゆっくり考えたい」と話した村上以外は、すでに次の目標に向かってスタートを切っている。

白鳥は「引退はしない。こういった負けはずっと繰り返してきているので、この先、日本のビーチバレーボールについて真剣に考えて、前に進まなくてはいけないと思っている」と語った。

石井も「負け方がよくなかったので、やり切ったというすっきりした気持ちにはなっていない。無観客開催で、歓声に包まれるという感じにはならなかったが、オリンピックという場所に立てたことはよかった。せっかく経験させてもらったので、これを生かせるように頑張りたい」とすでに海外転戦を再開させている。

東京2020オリンピックでの経験は、日本のビーチバレーボールにどんな影響をもたらすのだろうか。さらなる検証はこれからだが、強化のサイクルは止まることなく続いてゆく。