松本姉妹の長期ビジョン。「長年組むペアに大切なもの」
4月末に開幕した「マイナビジャパンビーチバレーボールツアー2023」も残すところ、ついに2戦。北は青森、南は宮崎と全国各地で繰り広げてきた砂地には、国内最高峰ツアーに挑んだ選手たちの汗や涙の結晶が、刻み込まれてきた。
今シーズンの終盤では、果たしてどんなドラマが待っているのだろうか。ここでは、2年ぶりの優勝を狙う松本恋、松本穏の姉妹ペアにクローズアップする。
今年5年目を迎える「マイナビジャパンビーチバレーボールツアー」の歴史において、デビューイヤーで入賞を連発し、鮮烈なデビューを飾ったペアは数少ない。2018年からペアを結成しほとんど無名に近かった松本恋/松本穏組が登場したのは、「マイナビジャパンツアー2021名古屋大会」。ワイルドカードを獲得して出場した初のツアー大会で3位入賞を果たした。
続く都城大会ではアクティオ・ワイルドカードで出場した松本姉妹は、あれよあれよと勝ち上がり、準優勝に輝いた。その年の最終戦となった沖縄大会では、見事初優勝をつかんだ。
▲姉の松本恋
瞬く間にトップチームの仲間入りを果たし、その翌年となる2022年には注目の姉妹チームとして数々のメディアに登場した。目標は「家族でオリンピック出場」。愛知県犬山市の土地を購入し砂を運び作った自前のコートで、監督である父、コーチである母とともに家族総出で日夜トレーニングに励んできた。
そんな彼女たちの武器は、テンポの速いワン、ツー攻撃やネットを利用したトリッキーなプレー。忍者のようなすばやい動きで、相手に隙があれば、ボールを相手コートへ次々と落とし敵を圧倒し続けた。
2022年は本格的にビーチプロツアーやアジアツアーに参戦。国内でも表彰台にコンスタントに上がれる実力をつけたが、長谷川暁子(NTTコムウェア)/坂口由里香(トーヨーメタル)組や橋本涼加(トヨタ自動車)/村上礼華(ダイキアクシス)組ら上位チームに白星を挙げられなかった。
▲妹の松本穏
ツアーに参戦して3年目を迎えた今年。一発勝負の全日本選手権は制したものの、長丁場のツアーではなかなか上位に進出できない日々が続き、未だ無冠である。
その現状を踏まえ、松本恋は「相手チームは自分たちの戦い方に慣れてきて、自分たちのミスで終わってしまう試合が多い。毎週のように試合があると目の前のことにとらわれて、長期的に取り組んでいる課題が疎かになっている」と、心境を打ち明けた。
松本姉妹が目指すのは、5年後のロサンゼルス五輪出場だ。高身長化している世界において170cmにも満たない彼女たちの生命線。それは自分たちの攻撃と相手のブロックの動きに『ズレ』を生み出すことだ。松本穏はこう述べる。
「ブロックに正面で跳ばれない状況を作ることを意識しながら、助走のスピードを上げて強打を打つ練習をしてきました。でも、1本目のパスが上がらないと気持ちが焦って助走に入るタイミングが早くなってしまう。そうなると、ブロッカーにも攻撃する位置が定められてしまい、自分たちがやりたいことができない時もありました」。
松本姉妹が抱く攻撃のイメージは、コート後方からスピーディーな助走を仕掛け、トスの最高到達点で強打を打ち抜く。スケールは異なるが、世界上位の男子チームの攻撃スタイルに近いと言う。それは決して簡単な道のりではないが、あくまでも時間をかけてじっくりチームを作っていく構えでいる。
▲攻撃の助走が松本姉妹の生命線
その反面、喉から手が出るほど、マイナビジャパンツアーでの勝利もほしい。優勝から遠のいているという焦りもある。そんなジレンマに襲われると決まってミスが出始める。もともと元気が売りのキャラだが、今シーズンは淡々とプレーしている印象だ。
「姉妹だし、長くペアを組んでいることもあり、2人の間でいいプレーは当たり前で、悪いプレーが出るとそこにフォーカスし過ぎているような気がします。いいプレーのときもお互い喜び合って称えることも大切だし、そこから波に乗っていくこともあると思う。ペアを長く組んでいるからこそ、向き合わなければいけないことなので克服していきたい」
結成してから6年。階段を一段ずつ上ってきた松本姉妹は「この先も、ペアを変えることはない」と断言する。終盤戦のマイナビジャパンツアーでは、来シーズンへ弾みをつけるためにも有終の美を飾れるか。姉妹ならではの呼吸の合ったプレーに磨きをかけ、新境地を切り開く。