アンダーカテゴリー強化事業「Beach Academy」がスタート
2023年1月からアンダーカテゴリーの強化事業として「Beach Academy」がスタートしていることをご存知だろうか。日本ビーチバレーボール強化の底上げと若年層の継続的な強化を目的に立ち上げられ、参加者を公募しての強化練習会もすでに行われている。この事業のビジョンをジュニア強化責任者の白鳥歩氏に話を聞いた
――Beach Academyが始まった経緯を教えてください
「昨年、ジュニアの強化担当となりアンダーカテゴリーの国際大会や合宿などを行ってきましたが、強化のためには、単発的な強化事業では意味がなく、継続的な強化を行うことができる仕組みが必要だと感じ始めました。ただ、新年度の4月になってから突然始めても準備や関係各所との調整で1年終わってしまうと考え、まずは公募による強化練習会を1月から開催することにしました。練習会を通して、私たちがどれくらいの規模でできるのか判断し、対象となる若年層の現状を見ることが目的でした。
開催してみると初回に男女合わせて14名、その後も各回に男女20名ずつくらいの中高大学生の選手が来てくれました。接してみてわかったことは、ビーチバレーボールを練習する場所がない、教えてもらいたいけどそういった環境がない子たちが多いということでした。そうした練習会を通して、熱量、興味を持っていることがわかりました」
――これまでアンダーカテゴリーの練習などは川崎マリエンで行われることが多かったですが、今回はTACHIHI BEACH(東京都立川市)も会場になっているのですね
「TACHIHI BEACHは、新たにJOCの競技別強化センターに認定されました。アンダーカテゴリーでは合宿などでスタッフが宿舎へ送迎をしなければならないという課題がありましたが、最寄の立飛駅と立川駅が近く、食事、宿泊などの利便性が高いので、若い選手たちの合宿や練習会も行いやすいと思います。TACHIHI BEACHを運営する株式会社立飛ホールディングスは若い選手の育成に理解があり、ご協力いただいています」
取材日に行われた練習会はTACHIHI BEACHで行われた
――練習会以外にも計画があるのですか?
「普及につながるオープンな練習会は今後も行いますが、やはり重要なのは強化につなげていくことなので、4月以降は強化に特化する形式に少し変更していく予定です。すでに強化指定選手に栄養、心理、トレーニングの研修を行っているのですが、これもカリキュラム化して、強化の対象になった選手たちには必須で受けてもらいます」
――どのような選手を育てることが目標ですか?
「まずは自立した選手を育てることです。Beach Academyに来て、カリキュラムを言われたままやるのではなく、『なぜこれをやるのですか?』と聞けるくらい考えられる選手になってもらいたいと思っています。成績としての目標は、まだアンダーカテゴリーでは取ったことがないアジアでの1番を取ることを目指します。そのためには3年ぐらいの時間が必要だと考えています。まず、さまざまな技術を乗せる土台を作るためには、スポーツ科学について知ることが必要ですし、理解することが第一歩です。もちろん並行して練習をしていきますが、練習でしていることを自分で理解して、自分のチームに戻っても自主的に行えるという状態を作らなければと思っています。1年目はそういった土台づくりの教育を重点的に行う必要があります。
今後アンダーカテゴリーでは、ビーチバレーボールを理解し、状況に合わせて必要な指示を出しコミュニケーションを取れる、いわゆるビーチバレーボールIQの高い選手を育成していこうと話しています。それぞれの身体特性に合わせて、強みを生き出せるような支援をしていきたいです。
また、フィジカルの面で、他の競技団体の方と情報交換していると、自分の体を自由に動かすことができるコーディネーションに長けた選手の方が伸びるということが共通点としてあります。私自身も小学生からバレーボールをしているのですが、競技特性としてボールを扱うスキルが難しいこともあり、ボールを使った練習に時間を割いてきました。ボールの扱いはやればやるほどうまくなるので、そうなってしまう状況は分かるのですが、若年層には専門家に入ってもらい、どんどんコーディネーショントレーニングをやって体の動かし方を知ることが必要だと考えています。そういった基礎ができれば、そこから選手各自の強みやオリジナリティが活きて伸びると思います。1年目は土台、2年目は土台とスキルをつなげて、3年目に各自の強みを出していくという流れを考えています」
コーディネーショントレーニングにも力を入れる
――それらを実現するために重要なことはありますか?
「強化はとにかく時間をかける必要があります。私がジュニアの強化責任者から離れたとしても、これまで行ってきたノウハウが継続される必要があると思い、現在作成している資料、計画表、関係各所への連絡の手順や方法、その文面などすべてを残しています。また各ステークホルダーとの連携も重要です。以前、平野将弘コーチが『みんなでやれば遠くまで跳べる』とおっしゃっていたのですが、たくさんの方の協力を得られるようなシステムを作っていきたいと思います。人手が足りないということもありますが、アシスタントコーチを公募したこともその一環です」
――昨年、国際大会にも選手を派遣することができました。そこで経験できたことはありますか?
「日本はよく言えばミスが少ないバレーをします。それに対して、海外の19歳くらいの年代の選手たちはミスも多いですが、バンバン打ってきます。今は(ボールが)コートに入っていないけど、伸び伸びと打って、きっとこれを続けていけば、入るようになるのだと感じました。
U19世界選手権のプール戦でアメリカと対戦したときに、こんなことがありました。3セット目、15-15でグッドサイドに来ました。これは勝てるチャンスです。コートチェンジで、これからサーブが打つ日本の選手が『ジャンプサーブを打った方がいいですか?』と聞いてきました。そこで私は、『思い切りサービスエースを狙おう』と言いました。結果、サーブはアウトして、試合に負けたあと、選手から『入れるサーブを打たなくてよかったですか?』と聞かれました。確かにグッドサイドで、相手も若いからミスがあることを考えれば、サーブを入れれば勝てるという状況でしたし、本人たちも目の前の試合に勝ちたい気持ちがあったと思います。
それでも、大きな舞台で活躍する選手たちはグッドサイドで強いサーブを打つと思います。あの場面でエースを決めて、試合に勝つことができれば、選手が大きな自信を付けることのできる貴重なチャンスでしたし、私がその機会を奪うことはできません。だから狙おうと言いました」
参加者の中には昨年U19世界選手権に出場した竜神輝季の姿も
世界で活躍する選手たちは、自分で状況を打破する力を持っている。それは若いころから必要なチャレンジと失敗を繰り返して、手にした力だ。そういった選手を育てるために、育てる側も選手とともにチャレンジを繰り返し、失敗を反省し、成果を手にするしかない。白鳥氏は最後にこう話した。
「2032年のブリスベンオリンピックのときの選手はもちろん、それを取り囲むスタッフ、コーチ、トレーナー、レフェリーとして関わる人たちをいま育てているということをずっと意識しています。その時、私がその場にいなかったとしても、いま関わっている選手や周囲の人たちが関わろうと思ってもらえるような接し方を心がけています」
白鳥氏はまだ遠いゴールを見据えながら、Beach Academyでの1歩目を踏み出した。