【FOR BEGINNER’S COLUMN① 】 なぜ、ビーチバレーボールの ユニフォームは、ビキニなの?
皆さんはビーチバレーボールという競技から何を連想するでしょうか?
「水着」「ビキニ」と答える方は少なくないと思います。そして、なぜユニフォームが水着?なぜビキニ?と疑問に思っている方も多いでしょう。実は、海外でもこの疑問は「ビキニ問題」としてたびたび話題に上がります。とくに4年に一度、オリンピックが近づくと各国の女子選手はうんざりするほど質問を浴びます。
なぜ、「ビキニでプレーする必要があるのか?」と──。
水着でプレーすることやユニフォームのサイズなんて、選手のパフォーマンスにあまり関係ないのでは?と疑問に思っている方は多いのではしょうか?
ユニフォームの歴史と変化
それに、男女のユニフォームがこれほど違う競技も珍しいことです(体操や陸上競技なども多少、男女で異なります)。さらに女子のビキニのトップスは背中側を大きく開けることや、ボトムスのサイド幅は7cmまでなど、細かくユニフォームのサイズが決められていました(現在は異なりますが)。
最近のビーチバレーボールの国際大会の競技場はビーチにはなく、興行上の観点からも都心や観光施設の近隣に仮設コートを作られることが増えてきました(ロンドンオリンピックではバッキンガム宮殿の隣にコートが設けられました)。街の真ん中で水着というもの、違和感はあるでしょう。
歴史を振り返ると、ビーチバレーボールは1915年前後にハワイ・ワイキキビーチで生まれたと言われています。ビーチでの娯楽から急速に発展し、プレー人口も増え、ルールは次第に洗練されていきました。
競技化の道をたどり、1948年にカリフォルニア州サンタ・モニカで初めての賞金付き大会が行われ、1987年から国際バレーボール連盟(FIVB)主催の国際大会が始まりました。
出生地から考えると水着でプレーすることはおかしなことではありませんでしたが、アトランタオリンピック(1996年)からビーチが公式競技に採用されることに合わせて、1994年、正式に水着がユニフォームと定められたと言われています。さらに1999年にはFIVBがユニフォームの規格化を行い、すべての国際大会が水着でプレーされることになりました。
通気性や伸縮性、身体へのフィット感など、現在のユニフォームはさまざまな機能を備えている
注目されたきっかけはユニフォーム!?
このルールは当時から物議を醸していました。ビキニの強要は差別であると否定的な意見を持つ選手もおり、ビキニでプレーすることは選手自身のパフォーマンスを押し下げるだけでなく、選手に心理的悪影響を及ぼすと心理学者は言ったそうです。また、オーストラリアチームはこのルールに従わないと抗議しました。
しかし、この(女子の)ユニフォームによってインドアのバレーボールを超える注目を集め、興行的に成功したことは間違いありません。強豪選手の多くは砂の上で転がったり、飛び込む上で、タイトなビキニは最も機能的であると批判を意に介しませんでした。
その後、このルールはフェミニスト団体などからの非難を受けながら続いていましたが、ビーチバレーボールが世界へ拡大するにつれ、新たな問題に直面します。ひとつは寒い地域、寒い季節でのプレーはどうするのか。それよりも大きな問題はイスラム教諸国など宗教上、肌を露出することをタブーとする地域、保守的な文化を持つ地域への普及をどうするのか、ということでした。
以前よりアジアや南米の大会では、ローカルルールとしてビキニ以外のユニフォームも許可されてはいました。しかし、イスラム教諸国での人権運動、民主化が進む中、イスラム圏の女性の地位が向上しスポーツをする環境も広がったことにより、FIVBはロンドンオリンピック(2012年)の大陸予選から、ショートパンツ、袖あり(もしくは袖なし)のシャツも認めることになりました(寒さ対策として全身ボディスーツも認められます)。
これにより、イスラム圏でもビーチをプレーする可能性が広がりました。リオデジャネイロオリンピック(2016年)ではエジプトの女子チームが出場して、ボディスーツにヒジャブを巻きプレーし、ビーチバレーボールの歴史に大きな一頁を記しました(イスラム圏では女性運動の先駆的な国、エジプトからというのは象徴的です)。
リオデジャネイロオリンピックでのエジプト女子代表チーム(写真/FIVB)
着たいものを着てプレーする
このように現在ではビキニ、水着でプレーする必要はありません。しかしパフォーマンス、機能性(水着は個々に採寸した特注品のため、激しく動いてもずれないそうです)を考え、多くの選手がビキニを選択しています。
また「強い選手ほど水着が小さい」という信仰(?)もあり、「なぜ水着なのか?」という質問にうんざりしても、今後もこの流れは世界的にも変わらないでしょう。
ただし、ビキニが強要から選択に変わったことは、イスラム圏の女性に門戸を開いた以上に大切なことかもしれません。ビーチはもともと、屋内でバレーボールをするより外でプレーした方が楽しいでしょ?という考えから始まったスポーツです。つまり、既成の概念、価値観に反発する若者のカウンター・カルチャーとして生まれ、発展してきました。
ルールで縛ってしまうのはある意味、ビーチの文化にはそぐわなかったように思えます。「着たいものを着てプレーする」というのは、このスポーツの原点に立ち返ったとも言えるのではないでしょうか。
文/スポーツジャーナリスト・小崎仁久
それに、男女のユニフォームがこれほど違う競技も珍しいことです(体操や陸上競技なども多少、男女で異なります)。さらに女子のビキニのトップスは背中側を大きく開けることや、ボトムスのサイド幅は7cmまでなど、細かくユニフォームのサイズが決められていました(現在は異なりますが)。
最近のビーチバレーボールの国際大会の競技場はビーチにはなく、興行上の観点からも都心や観光施設の近隣に仮設コートを作られることが増えてきました(ロンドンオリンピックではバッキンガム宮殿の隣にコートが設けられました)。街の真ん中で水着というもの、違和感はあるでしょう。
歴史を振り返ると、ビーチバレーボールは1915年前後にハワイ・ワイキキビーチで生まれたと言われています。ビーチでの娯楽から急速に発展し、プレー人口も増え、ルールは次第に洗練されていきました。
競技化の道をたどり、1948年にカリフォルニア州サンタ・モニカで初めての賞金付き大会が行われ、1987年から国際バレーボール連盟(FIVB)主催の国際大会が始まりました。
出生地から考えると水着でプレーすることはおかしなことではありませんでしたが、アトランタオリンピック(1996年)からビーチが公式競技に採用されることに合わせて、1994年、正式に水着がユニフォームと定められたと言われています。さらに1999年にはFIVBがユニフォームの規格化を行い、すべての国際大会が水着でプレーされることになりました。
通気性や伸縮性、身体へのフィット感など、現在のユニフォームはさまざまな機能を備えている
このルールは当時から物議を醸していました。ビキニの強要は差別であると否定的な意見を持つ選手もおり、ビキニでプレーすることは選手自身のパフォーマンスを押し下げるだけでなく、選手に心理的悪影響を及ぼすと心理学者は言ったそうです。また、オーストラリアチームはこのルールに従わないと抗議しました。
しかし、この(女子の)ユニフォームによってインドアのバレーボールを超える注目を集め、興行的に成功したことは間違いありません。強豪選手の多くは砂の上で転がったり、飛び込む上で、タイトなビキニは最も機能的であると批判を意に介しませんでした。
その後、このルールはフェミニスト団体などからの非難を受けながら続いていましたが、ビーチバレーボールが世界へ拡大するにつれ、新たな問題に直面します。ひとつは寒い地域、寒い季節でのプレーはどうするのか。それよりも大きな問題はイスラム教諸国など宗教上、肌を露出することをタブーとする地域、保守的な文化を持つ地域への普及をどうするのか、ということでした。
以前よりアジアや南米の大会では、ローカルルールとしてビキニ以外のユニフォームも許可されてはいました。しかし、イスラム教諸国での人権運動、民主化が進む中、イスラム圏の女性の地位が向上しスポーツをする環境も広がったことにより、FIVBはロンドンオリンピック(2012年)の大陸予選から、ショートパンツ、袖あり(もしくは袖なし)のシャツも認めることになりました(寒さ対策として全身ボディスーツも認められます)。
これにより、イスラム圏でもビーチをプレーする可能性が広がりました。リオデジャネイロオリンピック(2016年)ではエジプトの女子チームが出場して、ボディスーツにヒジャブを巻きプレーし、ビーチバレーボールの歴史に大きな一頁を記しました(イスラム圏では女性運動の先駆的な国、エジプトからというのは象徴的です)。
リオデジャネイロオリンピックでのエジプト女子代表チーム(写真/FIVB)
着たいものを着てプレーする
このように現在ではビキニ、水着でプレーする必要はありません。しかしパフォーマンス、機能性(水着は個々に採寸した特注品のため、激しく動いてもずれないそうです)を考え、多くの選手がビキニを選択しています。
また「強い選手ほど水着が小さい」という信仰(?)もあり、「なぜ水着なのか?」という質問にうんざりしても、今後もこの流れは世界的にも変わらないでしょう。
ただし、ビキニが強要から選択に変わったことは、イスラム圏の女性に門戸を開いた以上に大切なことかもしれません。ビーチはもともと、屋内でバレーボールをするより外でプレーした方が楽しいでしょ?という考えから始まったスポーツです。つまり、既成の概念、価値観に反発する若者のカウンター・カルチャーとして生まれ、発展してきました。
ルールで縛ってしまうのはある意味、ビーチの文化にはそぐわなかったように思えます。「着たいものを着てプレーする」というのは、このスポーツの原点に立ち返ったとも言えるのではないでしょうか。
文/スポーツジャーナリスト・小崎仁久
このように現在ではビキニ、水着でプレーする必要はありません。しかしパフォーマンス、機能性(水着は個々に採寸した特注品のため、激しく動いてもずれないそうです)を考え、多くの選手がビキニを選択しています。
また「強い選手ほど水着が小さい」という信仰(?)もあり、「なぜ水着なのか?」という質問にうんざりしても、今後もこの流れは世界的にも変わらないでしょう。
ただし、ビキニが強要から選択に変わったことは、イスラム圏の女性に門戸を開いた以上に大切なことかもしれません。ビーチはもともと、屋内でバレーボールをするより外でプレーした方が楽しいでしょ?という考えから始まったスポーツです。つまり、既成の概念、価値観に反発する若者のカウンター・カルチャーとして生まれ、発展してきました。
ルールで縛ってしまうのはある意味、ビーチの文化にはそぐわなかったように思えます。「着たいものを着てプレーする」というのは、このスポーツの原点に立ち返ったとも言えるのではないでしょうか。
文/スポーツジャーナリスト・小崎仁久