バレーボール男女日本代表チーム シーズン総括コメント
「第33回オリンピック競技大会(2024/パリ)」(以下、パリ2024オリンピック)の終了をもって2024年シーズンのバレーボール男女日本代表チームの活動が終了し、男子日本代表チームのフィリップ・ブラン監督、女子日本代表チームの眞鍋政義監督が今シーズンを総括しました。
◆バレーボール男子日本代表チーム フィリップ・ブラン監督 コメント
2017年以降、特に東京2020オリンピック以降、私たちは着実に進歩しました。2023年と2024年はさらに格別な年でした。
皆さんの関心がオリンピックに集中していることは承知していますが、リオデジャネイロで開催されたネーションズリーグ第1週では、髙橋藍選手と石川祐希選手が欠場していたにも関わらず、アルゼンチン、セルビア、キューバ相手に3勝できたことを非常に誇りに思っています。
この数年間ずっとそうであったように、パフォーマンスの向上は常に私のチームマネジメントとオリンピックプロジェクトの中核をなすものでした。高い目標を達成するには、明確でわかりやすい目標と適切な計画が不可欠でした。パフォーマンスを追い求め、2024年6月に世界ランキングが2位となりネーションズリーグでは2023年の銅メダルに続き、銀メダルを獲得することができました。
これらの成功により、オリンピックが近づいても、私たちは平静さを保つことができたはずです。多くの素晴らしい経験を積み、オリンピック前最後で唯一の親善試合となったポーランドとの試合も勝利することができました。オリンピックでのメダル獲得は、非常に高い目標ではありましたが、チームのプレーの質とこれまでの結果を考えれば現実的であるように思えました。
しかし、オリンピックは特別な大会です。感情のコントロールがチームのパフォーマンスにおいて特別な役割を担う大会なのです。オリンピック史上最もレベルの高い大会の1つである今回のパリ2024大会ではなおさらです。オリンピックのメダルを獲得して日本のバレーボール競技の歴史に1ページを刻みたいと告げるとき、その任務の重大さに直面し、自分自身の感情をコントロールすることは至極困難です。
準々決勝で敗れたのは事実ですが、今大会の本当のターニングポイントはドイツとの第4セットでした。私たちはこのセットに勝つ、つまりセットカウント3-1で勝利を収める十分な可能性がありました。そうなっていれば、精神的にも、また準々決勝前の順位も、完全に変わっていたでしょう。
もちろんドイツはこの大会中、驚くべきパフォーマンスを見せました。銅メダルのアメリカ、金メダルのフランスに対してフルセットまで追いつめました。勝利は私たちの手の届くところにあり、勝利すれば私たちに大きな自信を与えてくれたことは間違いありません。
私はオリンピックでメダルを獲得することができませんでした。私が手にしたことのない唯一のメダルだっただけに、個人的には非常に残念です。それ以上に、スタッフや選手たちが懸命に努力してきた夢、つまり日本のオリンピックメダリストに名前を刻むという夢を達成させてあげられなかったことが、本当に悲しいです。
ただ、目標を達成できなかったとしても、2022年の世界選手権王者であるイタリアに、準々決勝では信じられないようなパフォーマンスを発揮しました。試合時間は2時間24分、総得点は日本114点、イタリア113点でした。このような結果に対し、非常に残念な思いを抱くことは当然です。イタリアが私たちよりもうまく切り抜けていたとはいえ、マッチポイントが4回あったのですからなおさらです。この敗戦の責任は誰にもありません。ましてや、すばらしいキャプテンであり、アメリカとの厳しい試合から立ち直ってイタリア戦で32得点を挙げた石川祐希選手に責任はありません。
パリオリンピックの開幕前に選手たちに話したように、確かにオリンピックにおける夢は実現させなければなりませんが、実際には、このオリンピックまでの間に、私たちはすでに日本のバレーボールの歴史を何度も塗り替えてきました。私は代表選手全員をとても誇りに思っていますし、もしもう一度やり直すことになっても同じ選択をするでしょう。確かに予選ラウンドでは、各選手のパフォーマンスは必ずしも安定していたわけではありませんでしたが、話し合いを重ねた結果、準々決勝でチームの本当の姿を見せて戦うために、すべてのエネルギーを結集することができました。第3セットを落としても諦めない、意志が固く闘志あふれるチーム。敗れはしましたが、ファンの皆さんと日本のバレーボール界は、このチームを誇りに思うことができると信じています。
南部正司男子強化委員長と坂本將眞マネージャーのすばらしい仕事ぶりに心から感謝したいと思います。彼らは準備期間中、チームに最高のコンディションを整えてくれました。そして個人的には、自分の決断をいつも南部強化委員長に支えてもらっていると感じていました。あらためて感謝します。そして同じく、私たちをサポートしてくれた日本オリンピック委員会、ならびにAチーム、Bチームのプロジェクトを支えてくれたVリーグのクラブや大学の先生方にも感謝したいと思います。
またチームスタッフにも感謝しています。有能で仕事熱心、そして何よりもお互いを思いやることのできる方々と働くことができて幸せでした。私を「サポート」してくれたスタッフの友たち、ありがとう。カントクとして、これ以上の仕事仲間を望むことはできませんでした。チームを率いることは常に冒険であり、私は自分の仕事に情熱を持っています。そして、東京とパリの2回のオリンピックを共に経験させてくれた選手たちに感謝したいと思います。あなたたちが私を信頼してくれたので、育成においてもプロジェクトの指揮においても、私はその期待に応えようと努めました。
私はこれからも、日本代表チームのファンであるだけでなく、あなた方選手たちのファンであり続けます。あなたたちは皆、まだまだ多くのことを見せることができます。そして、スキルを伸ばし続けるためにオープンな心を保ってください。さらにプレーを楽しむことができるでしょう。
そして最後に、私に男子日本代表の監督を任せてくれた日本バレーボール協会に感謝します。川合俊一会長、役員および職員の皆さん、ご協力くださりありがとうございました。私たちの共同作業は本日をもって終了します。今回は決断のタイミングが合いませんでしたが、近い将来、また一緒に仕事ができる機会があることを願っています。
◆南部正司男子強化委員長 コメント
2022年にフィリップ・ブラン監督が就任し、多くの皆さまに支えられながら、パリ2024オリンピックまで戦えましたこと、改めて感謝御礼申し上げます。
バレーボール男子日本代表チームは、昨年パリ2024オリンピック出場権を獲得し、本大会では東京大会以上の成績を残すことを最低ラインの目標とし、メダル獲得を目指して戦いました。しかし、最終順位は7位と悔しくも1点の重みを再認識させられました。この結果については真摯に受け止めなければなりませんが、この約3年でバレーボール男子日本代表チームは世界から名実共に注目されるチームになったと、自信を持って言えるようになりました。
ブラン監督はコーチ時代を含め8年間、バレーボール男子日本代表チームの強化に尽力し、戦術やテクニックなどをはじめ、数多くのスキルを世界のトップクラスに引き上げてくれました。2023年のアジア選手権優勝、ネーションズリーグにおいては2023年に3位、2024年に準優勝と2年連続で表彰台に上がり、パリ五輪予選では16年ぶりに自力でオリンピックの出場権を獲得しました。
またブラン監督との共同作業のもと、シニアチームを2チーム制にして選手層を厚くすることができ、さらに若手有望選手の合宿を行うなど、若年層の育成にも取り組むことができたのは、今後の男子バレーボール界にとって、大きな成果となりました。
◆バレーボール女子日本代表チーム 眞鍋政義監督 コメント
2021年12月にバレーボール女子日本代表監督に5年ぶりに就任した際、私に課せられた最大のミッションが「パリ2024オリンピックの出場権獲得」でした。東京2020オリンピックの延期により、次のパリ大会までに与えられた準備期間は3年と通常より短いものでしたが、それはどのチームにとっても同じこと。自国開催のオリンピックを10位で終えた日本の女子バレーを復活させるべく、覚悟を決めました。
チームが始動した2022年シーズンは、世界ランキングを少しでも上げるためにネーションズリーグではファイナルラウンド進出、世界選手権では第3次ラウンド進出を目標に定めました。結果としてどちらの目標も達成することができ、チームを引き継いだときは9位だった世界ランキングを6位まで上昇させることができました。
2023年シーズンはサーブの強化を最大の課題として取り組みました。オリンピック予選ではトルコとブラジルに惜しくも敗れ、出場権を獲得することはできませんでしたが、振り返れば2023年シーズンをかけて取り組んだこのサーブ強化が、翌年のネーションズリーグでの銀メダル獲得やオリンピック出場権獲得に繋がったと考えています。
今シーズンは、パリ2024オリンピックの出場権がかかるバレーボールネーションズリーグと、その後に控えるオリンピック本大会と、短期間でふたつの大会にピークを持っていかなければならない難しいシーズンでした。それでも、選手、スタッフの頑張りが実を結び、ネーションズリーグ初戦で開催国で当時世界ランキング1位であったトルコにフルセットの末に勝利するなど、1戦1戦世界ランキングのポイントを積み重ね、オリンピックの出場権を獲得するというミッションを達成することができました。
さらにファイナルラウンドでは、準々決勝でアジアのライバル中国に勝利すると、準決勝では予選ラウンドから準々決勝まで13連勝中だったブラジルを破り決勝に駒を進めました。決勝でイタリアに敗れはしたものの、女子日本代表として10年ぶりに銀メダルを獲得することができました。トーナメント戦での銀メダル獲得は1978年にソ連で行われた第8回世界選手権大会以来であり、このような成績を収められたことを誇りに思いますし、今後の活躍が期待される若い選手たちにとって、たいへん貴重な経験になったと確信しています。
二つ目の山であるパリ2024オリンピックに向けて、ネーションズリーグ終了後に選手、スタッフ全員で話し合い、「メダル獲得に挑戦」という新しい目標を設定しました。約1ヶ月という短い期間ではありましたが、最大限の準備をしてオリンピックに臨みました。しかし、オリンピック本大会ではネーションズリーグのファイナルラウンドで見せたような勝負強さを発揮することがなかなかできませんでした。初戦のポーランド戦のセット終盤、相手がギアを入れてくるタイミングで我々にミスが出てしまい、セットを取り切れないシーンがありました。ポーランド戦でも、その次のブラジル戦でも「あの1点、あの1本」と悔やまれる場面がいくつもありますが、これが我々の実力だったのだと今は真摯に受け止めております。
東京2020オリンピックからの再起を託された身として、最低限の目標である「パリ2024オリンピックの出場権獲得」という目標は達成することができましたが、自分たちの力を信じて目指したオリンピックの表彰台には手が届きませんでした。
かねてより対戦国との体格やパワーの差について言及してきましたが、各国の守備力も年々上がっており、簡単にボールが落ちなくなっています。次のロサンゼルス2028オリンピックを目指すチームが世界の強豪国と互角に戦うためには、選手個々の技術、経験を積み重ねることはもちろん、戦術・戦略を磨き上げることが急務です。このチームが3年の間に経験してきた67試合の中で核となる試合を中心にしっかり分析して、次のサイクルを戦うチームへと引き継ぐつもりです。
3年間、たくさんの選手をバレーボール女子日本代表チームに招集し、ともに戦ってきました。その中には、パリ2024オリンピックを戦ってくれた選手13名だけでなく、これからの活躍が期待される選手もたくさんおりました。未来を担う選手たちに国際経験を多く積んでもらい、日本女子バレー全体の底上げを図っていくことが肝要であると、3年の任期を終えた今強く感じています。
最後になりますが、バレーボール女子日本代表チームに声援を送り続けてくださったファンの皆さま、ご支援をいただきましたスポンサーの皆さま、我々の活動を受け入れてくださった自治体ならびに関係各所の皆さま、選手の派遣などを通じてご協力いただきました所属チーム、リーグ、大学、高校などの皆さま、そして情報発信を担ってくださった報道機関の皆さま、全ての皆さまに心より御礼申し上げます。
◆中村貴司女子強化委員長 コメント
バレーボール女子日本代表チームは今シーズンのネーションズリーグ予選ラウンド終了後の世界ランキングでパリ2024オリンピックへの出場権獲得を目指しました。
そのネーションズリーグで出場権を無事獲得し、さらに準優勝という結果を残すことができました。パリ2024オリンピックに向けては、メダル獲得という目標を掲げ、約1ヶ月という短い調整期間を経て世界の強豪チームと戦う準備を進めました。
オリンピック初戦のポーランド戦は善戦するも惜敗を喫し、ネーションズリーグの準決勝でも対戦し勝利していたブラジルとの一戦は、相手の気迫に翻弄された結果となりました。ケニア戦ではしっかりと日本のバレーボールを展開することができましたが、最終的には9位という結果で終了することとなりました。選手やスタッフはオリンピックの厳しさを目の当たりにし、今後の糧としてさらに個人としての技術に磨きをかけ、バレーボール界の発展に生かしてくれることと思います。
2021年12月から女子日本代表監督に就任いただいた眞鍋政義監督におかれましては、パリ2024オリンピック出場を第一目標に掲げ、スタッフ、選手に寄り添いチームをしっかりまとめ上げてくださいました。特に選手選考においては優秀な選手が多くいる中、海外で通用する選手の見極めなど、相当なご苦労がありましたが、采配を含め手腕を大いに発揮し、ネーションズリーグで準優勝、自力でのパリ2024オリンピック出場へとチームを導いてくれましたことに深く感謝しております。
協賛社やメディア、そしてファンの皆さまにはこの3年間の活動にご支援ならびにご声援を賜り誠にありがとうございました。ともに戦っていただきましたすべての関係者皆さまに深く御礼申し上げます。そして、今後も皆さまのご支援ご鞭撻のもと、強く愛されるバレーボール女子日本代表チームを構築するために尽力してまいります。
◆川合俊一会長 コメント
パリ2024オリンピックも閉幕し、バレーボール日本代表の2024年シーズンが終了しました。
私もスケジュールの合間を縫い、選手の補食となるカステラをスーツケースに詰め込んで激励のために現地へ駆け付けました。選手達には「今この舞台に立つことができている自分たちを誇りに思い、幸せに思い、全力で楽しんで欲しい」と伝えました。男女各1試合を観戦しましたが、選手たちは力のかぎりプレーしている姿を見せてくれたと思います。遠くパリまで日本から応援に駆け付け国旗を振ってくれる方々、それに海外の方も加わって会場に響きわたる「ニッポンコール」、鳥肌が立つほどの感動を覚え、観客を魅了するチームを作り上げた男女代表チームの皆さんに尊敬と感謝の念があふれました。
東京2020オリンピック後の3年間、新型コロナウイルスの影響により通常より1年短い準備期間となりましたが、男子はフィリップ・ブラン監督、女子は眞鍋政義監督にその陣頭指揮にあたっていただきました。
ブラン監督には、コーチ時代を含めて8年間、男子日本代表チームの強化に携わってもらいました。ネーションズリーグでの2年連続メダル獲得や、16年ぶりに自力でオリンピック出場権を獲得するなど、男子日本代表を世界の強豪国と渡り合えるチームへと成長させてくれました。特に守備力の強化は著しく、強力なサーブやスパイクを何度も何度も拾い攻撃へとつなげる選手たちの姿は、世界中を驚かせ、魅了したことと思います。集大成として臨んだパリ2024オリンピックは、思い描いたような結果とはなりませんでしたが、表彰台に立つためのイメージをチームにしっかり植え付けたことは今後に活きるはずです。
眞鍋監督には、5年ぶりに女子日本代表チームの指揮を執ってもらいました。眞鍋監督の教え子でもあるロンドンオリンピック銅メダルメンバーに「アントラージュ」として練習に参加してもらうなど、さまざまな関係者に協力を呼び掛け、女子日本代表チームの復活を目指す「オールジャパン」体制を打ち立てました。東京2020オリンピックは10位だったチームは、2022年の世界選手権で5位、今年のネーションズリーグでは銀メダル獲得と、再び世界で戦えるチームを作り上げました。パリ2024オリンピックでは予選ラウンド敗退となりましたが、選手たちはサーブで攻める姿勢、どんなボールにも食らい付く守備への意識の高さを随所で見せ、最後まで戦い抜きました。
また、男女ともに監督を支えチームの強化に尽力したスタッフの存在があったからこそ、監督は目の前の試合に集中し、選手たちはパリ2024オリンピックの最終戦まで全力を出し切ることができたのだと思います。
最後に、ロサンゼルス2028オリンピックを目指す男女日本代表チームの監督について少しだけお話しをさせていただきます。現在、規程に従い立ち上げられた監督候補者選考委員会によって議論されています。9月、遅くとも10月には監督候補者を理事会の場で審議できる準備を進めていますので、改めてご報告できるタイミングまでお待ちいただければと思います。
この3年間の経験が、必ずや今後の日本バレーボール発展への財産になるものと信じています。改めてバレーボール日本代表を支えてくださった全ての方々に感謝を申し上げます。
ありがとうございました。そして引き続きのご支援をよろしくお願いいたします。