PLAYERS INTERVIEW ⑯ 松本穏
2021年、旋風を巻き起こした松本恋(れん)/穏(のん)組の「頭脳」としてゲームメイクを担っているのは妹の穏である。その能力はマイナビジャパンツアーでも実証ずみ。相手チームの意表をつくワンレシーブやネットを使ったプレーの技術はチームの最大の武器である。今回は妹の松本穏(Mt.dogs)のビーチバレーボールに対する考え方を紐解いていく。
──激動の2021シーズンを改めて振り返って、いかがでしょうか?
「2021シーズンはマイナビジャパンツアーに出ることを目標にしていたのですが、保有ポイントからすると現実的に難しい位置にいると思っていたので、とにかく公認大会に出てポイントをためていこうと思っていました。少しずつ公認大会でも勝てるようになってはいましたが、3大会も出場できるなんて想像はしていませんでした。最初の名古屋大会に開催地枠で出場できることが決まったとき、『本当に奇跡だから一発のチャンスに懸けるしかないよ』と話をしていました。そこで1つ勝てて、その後の都城大会でもアクティオワイルドカードで出させてもらい、沖縄大会につなげることができました」
名古屋大会でチャンスをつかみ飛躍した2021シーズン
──チャンスを生かすことができた要因は何だと思いますか?
「普段の練習が試合に出ると思っていて、昨年の大会では普段通りにできたのが大きかったと思います。だからといって、普段の練習できついことをやっているのではありません。実はどんな大会でも緊張するタイプなんですよ。練習のときでも緊張します。なのでマイナビジャパンツアーでも同じ緊張感で臨むことができました」
──緊張感というのは、気持ちの部分でということでしょうか?
「はい。相手関係なく、ここで勝てなかったら目標が遠ざかってしまう…など、マイナス面ばかりを考えて気持ちがナーバスになってしまうんです。そこを自分で隠そう、隠そうとして疲れてしまうこともありました。逆に試合が始まったら『いけるんじゃん』とうまくまわることが多いんですけど(笑) 自分にとっては緊張状態がネガティブな部分だと思っていて、コーチである父に相談したら『その緊張状態で練習できるなら、大きな試合でも同じ状態を保つことができる』と言われて、今は緊張することをポジティブにとらえています」
──それは試合に向けてしっかり準備できているという証しでは?
「そうかもしれません。練習から緊張していますからね。とくにゲーム練習は、ゲームでしか味わえない緊張感と、気持ちに負荷をかけた状態でゲームに慣れることを意識しています」
──姉の恋選手が、穏選手は「常に考えながらプレーしている」とおっしゃっていました。穏選手のビーチバレーボールIQは日々どうやって鍛えられているのでしょうか?
「IQなんてそんなにないですよ(笑) ただ、自分よりもバレ-ボールがうまい人や身体能力が高い人はいくらでもいるので、その人たちと同じことを考えても負けてしまうから、非常識を常識にしようと考えながらやっています。他の人がやっていることを、まねして同じことをしていても、それはその人の考え方や能力だから、私に当てはまるかはわからない。だから型にはまらないことが大切。『ワン返しやりすぎ』『全然強打を打たないよね』などと言われますが、ビーチバレーボールという競技の特性を引き出すと、私にとってそれが勝つための術なんです。相手の頭にないことをやらないといけない。ただ、それは私のことを理解してくれるパートナーの恋ありき。他の人とペアを組んだときに自分の課題がよくわかります」
──姉の恋選手は妹の穏選手から見てどんな選手ですか?
「私は練習通りのことしかできないタイプですけど、恋は練習でやらない、想像できないようなことを本番でやってくれる人。それが大事な場面で出たりするんですよ。上手い選手と言うよりも“強い選手”が、ぴたりと当てはまりますね」
姉妹ペアとして息の合ったプレーを見せる
──目標にしている選手は?
「この選手みたいになりたい、と目標を設定してしまうと、その選手に近づけようとしてしまうので、とくにいません。唯一あげるならば、イタリアの男子選手、カランブラ(Adrian Ignacio CARAMBULA RAURICH)選手。みんながやらないようなことをやっているので、その技術をどう身につけたのか知りたいですね。あとはプレーだけではなく、誰に対してもフラットで愛嬌がある選手は尊敬します。村上めぐみ(株式会社立飛ホールディングス)さんや、坂口由里香(大樹グループ)さんは、周囲への振る舞いを見ていると相手が誰であっても態度を変えない。尊敬しますね。自分がされてうれしかったと思うことは目標にしていきたいです」
──姉妹でペアを組む強みとして「裏表なく何でも言い合える」という部分はあると以前お話していましたが、ときにはぶつかり合って落ち込むことはないのでしょうか?
「ないですね。厳しいことを言われたときよりも、厳しいことを言ってしまったときは気にしますが、それでまた言い返されてヒートアップするので。ただ、それが続くことはありません。お互いが『ごめん』と謝ることもないのですが、嫌な雰囲気が長引くことはありません。実はそれはコーチからの教えで、『そのまま練習を続けるな』と言われています。なぜなら、パートナーはコートの中では自分の夢を手伝ってもらっている人。一番感謝しないといけないのはパートナーだと。なので、ケンカのときの感情をずるずる引きずらないようにしています。ケンカすることが悪いのではなく、引きずることがよくないので」
──それでは最後に2022シーズンの目標をお願いします。
「日本代表の石井美樹(湘南ベルマーレ)/溝江明香(トヨタ自動車)組は、実際のプレーをこの目で見たことはまだありません。他のチームも進化を遂げてくると思います。そんな中、オリンピックへの近道にもなるアジア競技大会の代表チーム決定戦で結果を残すことができるか、ですね。どのチームと対戦するかもわかりませんし、その日によって相手のコンディションも違います。試合をうまく進めるのが難しくなっても、自分たちのプレーをやりきることが課題となってくると思います。あとはそのときいちばんいい状態で何ができるかを考えて、ケガをしないでシーズンを戦い抜きたい。今年はたくさんの方に自分たちのプレーを見てもらって、応援してくださる方々が増えればいいなと思っています」