PLAYERS INTERVIEW① 石井 美樹
2018シーズン、日本ランキング1位となり、ジャパンツアーでも女子選手トップの5勝をあげた石井美樹(荒井商事 湘南ベルマーレ)。日本代表としても、ワールドツアー最高峰のスイスでのメジャー大会(5star)で5位タイ、日本で開催された東京(3star)大会で銅メダル、そしてアジア競技大会(ジャカルタ/パレンバン)で12年ぶりの決勝進出を果たした。インドアから転向して4シーズン目にして、上のステージへ駆け上がった。そこで見えた景色とは。
変化があった2018シーズン
—2018年を振り返ってみてどんなシーズンでしたか?
石井:ビーチバレーボールを始めて一番よい年でした。スイスでのワールドツアーメジャー大会(5-star)でベスト8、アジア競技大会の銀メダル、そこで結果を残せたことが自信になりました。
—自分たちの結果としっかり向き合えたのでは?
石井:いいことばかりではないですよね。チームがつまづいた時にみんなでどう対処するか、いい方向へ行けるのか、話し合って乗り越えていったことがいい結果につながりました。チーム4年目にして、試合中に修正ができるようになりました。例えば、7点とかで負けるセットがあるじゃないですか。今まではそこから次のセットもなかなか巻き返すことができなかったけれど、今シーズンは1セット目を落としても2セット目で巻き返して、というのが多かったと思う。『あぁ、もうダメだ』と落ち込まずに、じゃあ切り替えてというのが試合中にできました。
—修正の仕方のセオリーがわかってきた?
石井:どうしてもよくない時は2人とも話さなくなっちゃうから。そこを素直に受け入れる、というか、頑固にならずにしゃべろうよ、と。それが今までできなかったけれど、しっかりコミュニケーションがとれた結果だと思います。
—お互い話さなくなる、というのは、どういう心境になるのですか?
石井:相手のことよりも自分たちのことばかり考える。もっとダメな時は、自分のことばっかり考えてしまうから。隣にパートナーがいるのにパートナーのことを考えられないで戦っている。そりゃ、7点とか10点とかで負けるよねっていう感じです。個々の力で戦っても、パートナーがいないと勝てないし、力を合わせないと戦えない。何があっても2人で戦うというのが、試合中にできるようになりました。
—石井選手は試合中に感情的になることはありますか?
石井:あります、あります(笑)。例えば、試合に負けている時、シン(村上選手の愛称)さんがボールを追わなかったり、見て終わっちゃったりした時は、普段の練習中に『上がらなくても追いかけてほしい』と自分の気持ちを伝えます。私がブロックを跳んで振り向いたら、シンさんの動きで何を狙っていたのか見せてくれればいいんですけど、動きがないと何を狙っているか意図が見えない。意図が見える動きだったらいいんですよ。そっちのほうがいずれ上がってくる気がするし、シンさんに後ろを安心して任せることができます。
—そういう細部もかみあってきたってことですね。
石井:時にはこだわらなくてもいい時もありますけどね。私はすごく細かい所に目がいくので、それが自分を苦しめていると思います。自分のプレーでうまくいかない時、『これ違う、こうかな?』と細かく見過ぎて、どんどん落ちていっちゃう。考えちゃうとよくないんです。素直に見たまま、プレーしたほうが自分の力を発揮できると思います。
湘南ベルマーレひらつかビーチパークでの練習風景。右はパートナーの村上めぐみ
自分に足りないものが見えてきた
—練習で一番意識していることは何ですか?
石井:前向きに考えること。さっき言ったように考えすぎちゃうとよくないので、細かく追求しながら自分がダメにならない程度のところを見つけてやっています。得意なことは普通にやっていても落ちていくことはないけれどその時、課題にしているプレーですね。今はスパイクをもっと決められるかを考えているんですけど、できないものを追求してもできないので、『今日はこの状態でここまでできるからこれでOK!』というふうに考えるようにしています。そうすることで、昨シーズンの後半からできなかったプレーも少しずつこんな感じだな、といったアイディアが出てくるようになってきました。
—今までそういう感覚はなかったのですか?
石井:ありませんでした。『なんでできないの?』という感じでどんどんダメになって練習の最後には『もうやりたくない……』といった感じでした。できないのが悔しくて投げやりになる。練習が終わっても、チーム全体でスッキリしないんです。私がそういう雰囲気を出しちゃったのかなと。自分でも、それはよくないってわかっていました。でも、考え方を変えたら、チームの雰囲気もよくなった気がしました。練習が終わった後のみんなのスッキリ加減がちょっと違うと感じました。
—いろいろ気づきがあったんですね。
石井:そうですね、自分自身も変わりました。やっぱりオリンピックに出たいし、そこで勝ちたいです。上の選手と対戦したという経験が大きかったですね。『上の選手はこんなことしてないよな』とか『この一球に対してもっと貪欲にやっているよな』、『だから勝てるんだよな』とか思うと、自分はこのままではダメなんだと思うようになりました。
—上のステージでそこで違う景色を見たからですね。
石井:はい、そこで負けて自分に足りないことがわかったのだと思います。
—そこでも簡単には負けなくなりましたね。
石井:2人で同じ方向を向いているから、簡単に負けなかったりする。日本の大会でもそうですよね。昨シーズンのファイナル(グランフロント大阪大会)の準決勝。アユさん(草野歩)タケさん(西堀健実)との対戦で以前だったら、セットをとられて焦ってどうしよう、決まらない、とか思っていたけど、シンさんも私もそれを考えなくなりました。どう勝ち抜くかを考えているから、それほど焦りもないですね。
—自信があるんですね。
石井:そうですね。その時は思っていないですけど、試合が終わって勝ってみると、負ける気はしないなと思って2セット目に入っていたなと思うことが多いです。変な自信ではなく、ここを修正すればよくなるかもしれない、という気持ちがあるから『次、これやってみよう』と言える自分たちがいます。
—2019年はオリンピック予選が本格化するシーズンですから、しっかりベースを作れたことは大きいですね。
石井:そうですね。リオデジャネイロオリンピックのコンチネンタルカップ第4フェーズを戦いましたが、あの時のプレッシャーは本当に大きかった。そのプレッシャーを超える大会は昨シーズンにはありませんでした。あれがマックスですね。オリンピックだったらもっとじゃないですか。アジア競技大会もプレッシャーはありましたけれど、リオの予選ほどではありませんでした。
望月剛コーチの指導を受ける石井
プレッシャーは自分が成長できるチャンス
—そういう収穫のあったシーズンでしたが、プライベートでもご結婚されました。おめでとうございます。旦那様の越川(優)選手とは、インドアの頃からお知り合いだったのですか?
石井:インドアの時は同じチームだったんですけど、話したことはありませんでした。1回だけ、会社の行事で一緒になったことがあるんですけど、その時も話していないですね。『全日本でキャーキャー言われているけど、誰?』という感じで、『ツンツンしてるんだろうな』と勝手に思っていました(笑)。だからビーチに転向してきて初めて話して『あっ、普通の人なんだ』って(笑)。話していて、なんかすごく話しやすいなと思ったのが第一印象です。
—お互いの性格で似ている部分はありますか?
石井:意思はお互い強いと思います。頑固なところもあるし、譲らないところもある。ケンカはしますけど、仲はいいと思います。お互いメッチャ言い合うんですけど、『こうやって言えるってことは信頼し合っているんじゃない?』という結論になります(笑)
—石井選手にとって、昨シーズンは公私ともに変化があったシーズンとなりましたね。
石井:みんな、『勝ちたい、勝ちたい』って思うじゃないですか。私自身もそう思うと、ちょっとしたミスでも許せなくなってしまいます。だから『勝ちたいけれど、自分たちのやれることをやりましょう』と。そう意識してきたんです。それができるようになったのが、さっきもお話したシーズン後半ですね。勝ちたいのはみんな一緒だから、どれだけ自分たちのプレーを出せるかとか、今のプレーが通用するか、と感じて臨んでいます。だから『オリンピック、オリンピック』って言いたくないんです。だから『オリンピックが迫ってきていますけど、どうですか?』って周囲からよく聞かれますけど、『ワールドツアーのほうが大事です』って言うようにしています。それを自分に言い聞かせて、言っているから行動にも出ているのかなって思います。
—それでは最後に2019年の目標をお願いいたします。
石井:2019年は、オリンピックの1年前の年ということで、きっともっと注目されて、もっとプレッシャーかかることが増えてくると思います。それでも自分の力を発揮して冷静にプレーできるか。自分が成長できるチャンスかなと思います。チームとしては、それに動じず、負けないようにガチッと一体になれるようにしていきたいです。個人ではもっと決定力が上げたいので、どんな場面でも、どんな環境でも、相手が嫌なところとかに攻めていく。もっと攻撃の引き出しを増やして、一瞬の判断力をもっと養っていきたいなと思います。
写真/平野敬久